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科学者の眼(62)
音引きを付けるか取るか、それが問題だ。
  安村 通晃 慶應義塾大学名誉教授

 
 先日、若い人の講演を聞く機会があり、内容はとても面白かったのだけど、スライドの一部に「センサ」の表記があり、おやッと思った。

 sensorは、センサ/センサーの両方の表記がありうる。似たので、motorもモータ/モーターの両方がありうる。昔の電子通信系の技術用語では、音引き(長音)を取ってセンサとかモータと表記するのが一般的だった。メモリが少ないときには、字数が少ないためもあり、こちらの方式が奨励されてきた。しかし、近年これらの用語も一般の人が使うことが増えてきたため、音引きを付ける会社が増えてきた(IBMやマイクロソフト、HPなど)。また、JIS規格などでも音引きを付けることを容認する方向に向かいつつある。

 音引きを取ったほうが良いとする人たちの論拠として、日本語では長音があるが、外国語では長音はなく、半音(半分だけの長音)が多いというものがある。カタカナ表記の原語主義(できるだけ原語に近い表記にしようとする立場)である。原語主義は良いが、必ずしも日本語の音声体系にマッチするとは限らない。たとえば、missileはミサイルと表記することがほとんどだが、音で聞くとミッソーと聞こえるが、そうは表記しない。逆に、モータとかセンサとかと表記された日本語の文章を、アナウンサーなどの日本語発音の訓練を受けた人の発音を聞くと、半音だけ伸ばさずに正確にプチッと切って発音している。

 私自身はどうかと言われると、コンピュータなどと書くことが多い。昔メーカーにいた頃は、コンピュータのことを計算機と呼んでいた。(文系も多い)大学に移って、自分の使う言葉を、一般の人にもできるだけ分かりやすい言葉にしようとして、計算機とか計算機プログラミングとかいうのは止めて、コンピュータやコンピュータプログラミングなどという言葉を多く使うようになった。コンピューターではないのか、という鋭い指摘があるかもしれない。まあ、比較的長い言葉は音引きを外してもいいのかな、と思う。ただ、センサーとかモーターとか、一般の人もよく使う言葉(で特に短い言葉)は音引きを残しておきたい。これらを一律取ってしまえば、ドクタ、レーザ、ペーパ、サーバなどとなるが、これらは、ドクター、レーザー、ペーパー、サーバーと書きたい。昔、メーカーにいたとき書いた原稿で、スーパーコンピュータをスーパコンピュータと校正されたことがあり、断固拒否したことがある。さらに、クロスバスイッチと書くものがあるが、これは、実はクロスバースイッチのことである。スーパコンピュータと表記されるくらいなら、むしろスパコンとした方が、略称だと思えるのでかえって良い。

 言語はその時代時代を反映したもので生き物のようであるが、まず画一的なルールを恣意的に決めて守らせようとするのは止めたい。その上で、一般の人が多く使う表記でしかも、日本語固有の表記にできるだけ合わせたものを選んでいきたいと思う。

 

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