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科学者の眼(56)
スマートフォンは暫定版ユビキタスコンピュータか?
  安村 通晃 慶應義塾大学名誉教授


  ゼロックスパーク(ゼロックスパロアルト研究所)の研究員だった故マーク・ワイザー(1999年病没)はユビキタスコンピューティング(ユビコンプ)を提唱して、一躍時代の寵児となった。1991年にサイエンスアメリカンに「21世紀のコンピュータ」という画期的な記事を書いた。彼は、コンピュータはメインフレーム(複数の人が1台のコンピュータを使用)から、パーソナルコンピュータ(1人1台)へ、さらには、一人が複数台のコンピュータを使う「ユビキタスコンピュータ」の時代になる、としている。メインフレームは1975年頃をピークにしだいに衰退し、代わってパーソナルコンピュータ(パソコン)が普及しだしたが、それも2000年頃には衰退し始める。ユビコンプが1990年頃から現れ始め、2005年頃には急激に伸びる、としている。

 ゼロックスパークでマーク・ワイザーらは、タブ型、パッド型、ボード型のコンピュータを試作していた。タブ型は手のひらに乗るもの、パッド型は手で持つノートサイズのもの、さらにボード型は黒板型のものである。いずれもペンで操作する。

 ところで、パーソナルコンピュータの原型をたどるとアラン・ケイに行きつく。彼は1960年代の末大学院生の頃、ちっぽけな液晶のかけらを見て、ダイナブックと呼ぶコンピュータを構想し、スケッチにも書いた。それは、子どもや絵かきなど、コンピュータの専門家でない人が日常的に使うものだ。学位を取りゼロックスパークに就職した後、1973年に仲間とALTOという、今でいうGUIを備えたコンピュータを初めて作り上げる。これを、アラン・ケイは暫定版ダイナブックと読んだ。

 ひるがえって、今のスマートフォン(スマホ)は、ペンを使わずに指で操作する。また、通信機能が入っている。加速度センサー、方位センサー、GPSなどさまざまなセンサーが内蔵されている。スマホは、一見携帯電話(いわゆるガラケー)と似ているが、実はパソコンの方に近い。さまざまなソフトが利用可能であること、インターネットの利用範囲が広いことがその理由である。インターネットの利用者はパソコンが減りスマホが増えて、今年の初めにはついに、パソコンの利用者を上回ったのではないかとも言われている。

 iPhoneなどのスマホの特徴は、モバイルとインターネットにあるだけではない。実は、ボタンを無くしたことに大きな特色がある。指でタッチしたり、スワイプしたりする。これは、「ボタンを無くす」ことに強いこだわりを見せたスティーブ・ジョブスのおかげとも言えよう。

 スマホの利用者が増えることは、アプリの広がりとも無縁ではない。小中学生でもスマホのアプリを開発するほど、開発環境も整いつつある。先に述べた、各種のセンサーを用いたさまざまなアプリも出回り始めている。iPhoneとアンドロイド端末との競争も大いに楽しみである。

 というわけで、スマートフォンを暫定版ユビキタスコンピュータと呼んでもおかしくないのではないか。マーク・ワイザーは今の状況をどう見ているのだろうか?

 

         
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