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科学者の眼(8)
設計者の思い、利用者の受け止め方

 安村 通晃 慶應義塾大学教授


  設計者には設計者の思いがあり、自分の作るシステムをなんとか便利にしたいと思う考えが入り込むものらしい。つまり、同じものを作るのなら、より便利でより使いやすいものを、と言うわけだ。これは、一種の「小さな親切」であろう。
  ところが、これを利用する利用者の側から見れば、この「設計者の思い」が必ずしも通用しない。つまり、設計者が頭にある前提がそもそも、利用者の側には成り立たないことが少なくないからだ。
  すなわち、設計者の側が考えた場合の利用者とは、ある程度の事前の知識があり、マニュアルをしっかり読んで、十分な時間をかけてそのものを使い、複数の選択肢があれば、より便利な方法で使うはず、というようなものである。
  これに対して、実際の利用者はというと、事前の予備知識がほとんどない場合もあり、マニュアルはほとんど読まず、そのシステムを使うのはごく限られた時間だけであり、しかも、効率の善し悪しとか、便利かどうかもお構いなし、という場合が圧倒的に多いのだ。
  たとえば、パソコンのハードディスク。これにはパーティションと呼ぶハードディスクを異なるドライブに分けて使う機能がある。デザインがよいとして知られているある会社のパソコンは、このパーティションを使ってCドライブとDドライブとを分けている。Cドライブがシステムが入っているものでやや容量が小さく、Dドライブはやや大きく、ユーザのデータを入れることを想定している。システムのバージョンアップやディスクのバックアップを考えてのためらしい。
  ごく普通の利用者がごく普通に使うと、ひたすらCドライブを使い、Dドライブがほとんど空なのに、Cドライブの方だけ満杯となり、容量不足でシステムが使えなくなることがよくある。Dドライブの使い方が標準的には用意されてないのだ。普通の利用者にとっては、バックアップやバージョンアップよりも、最初にあるはずのハードディスクを十分使いたいだけなのだ。ほかにも同じようなことは、世界でもっともよく使われていると思われるワープロソフトなどにもある。先頭の英字を無条件で大文字にしたりとか、並べて書くと自動的に箇条書きにしたり、とか。こういう機能を殺すほうに利用者はエネルギーを使ってしまう。
  設計者が余計なこと考えたために、かえって利用者にとっては迷惑となった例である。つまり、「小さな親切、大きなお世話」というわけだ。
  こういったことを防止するには、利用者の側は打つ手はあまりない。設計者の側が、利用者の実態や本当の考えを十分理解した上で設計するしかないだろう。

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