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科学者の眼(57)
ものの形

  徳田 雄洋 東京工業大学大学院教授


  仕事場の近くにある古い建物の廊下にきれいな懸垂曲線を観察できる場所がある。懸垂曲線とは、1つの鎖を、両端をその長さよりせまい間隔で固定して、自然に垂らしてできる鎖の曲線のことである。

 ふつう両端の固定点は同じ高さであることが多いが、その懸垂曲線は興味深いことに、片方の固定点は低く、もう一方の固定点は高くしてある。

 そうすると、一番下の高さから低い固定点の高さまではいつもの左右対称の懸垂曲線の形で、それより高い部分は左右対称の相棒がいないにも関わらず、あたかも相棒がいるかのように、いつもの懸垂曲線の片側部分を、気高く見せている。なんだかとても不思議な気持ちになってくる。どうして相棒がいない部分もいつもの形を知っているのだろうか。

 懸垂曲線は両端の固定点の間隔をせまく設定すると下方に鋭くとがった曲線となり、間隔をなるべく広く設定すると幅広のゆるやかな曲線となる。一見これらは、違った形に見える。人間で言えば、やせて背の高い人と太った幅広の人の体型くらい違った形に見える。

 しかし驚いたことに、とがった曲線の先端部分を適切な倍率で拡大コピーして比べると、ゆるやかな曲線に一致してくる。同様に幅広でゆるやかな曲線も、どんどん離れて見ていくと、下方に鋭くとがった曲線が現れてくる。つまり懸垂曲線は、円や正方形や放物線と同じく、この世の中には1種類の形のみ存在し、どれも相似である。そしてどの懸垂曲線も拡大や縮小のみで一致してしまう。 ものの形はなんと不思議なのだろう。

 

     
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