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科学者の眼(54)
独創とランダム生成

  徳田 雄洋 東京工業大学大学院教授


  独創的な見方や方法に出会ったり、独創的な音楽のメロディや絵画・デザインや物語の構造・表現にふれた時、私たちは「すごい。なんて独創的なんだろう。」と感動したり、「どうやってここに到達したのだろう。」と作り出した人々に対して尊敬の気持を持つ。その理由は既にあるものと似たありきたりのものを作ることは容易だけれども、独創的なものをはじめて生み出すことはとても大変だからである。

 人間が独創的なものを作り出す際に、対照的な2つのアプローチがあると考えられる。1つは非常にたくさんの最終候補から長時間かけて探し出す方法である。もう1つはある瞬間から頭の中に最終創作物がどんどん降ってくるようにする方法である。前者は膨大な最終候補を辛抱強く調べなければならないし、後者はしかるべき準備と集中の後に、いつ頭の中に降ってくるか・こないかわからないものを、じっと待たなければならない。

 さてコンピュータでこれら人間の独創的な制作作業を真似しようとするとどうなるだろうか? 1つはボトムアップ法、もう1つはトップダウン法が考えられる。

 ボトムアップ法では、既存の最終創作物を複数取り寄せて、編集加工して、類似でない1つのものを作ろうとする。例えばニュース記事要約の場合で、要約自動生成系の一般的構造に基づいて説明すると、同一トピックに関する既存のニュース記事を複数取り寄せて、それらから主要と思われる文をいくつか抽出し並べ直し、さらに一定単語数ごとに同じ意味の別単語に置き換える最終作業をして完成する。この方法の欠点は類似でないものを作ることが難しいことである。追加独創部分がなく既存創作物にやはり似てしまうことである。

 トップダウン法では、なんらかの生成規則を決めて、ランダムに制作物を生成し続け、希望の条件を満たすかどうかを検査する。最も素朴な場合で説明すると、例えば音8つのメロディならドレミファソラシドから音を8つ選んで組み合わせていき、5・7・5の12文字の俳句ならアイウエオ...ラリルレロワヲンガギグゲゴ...バビブベボから文字を12個選んで組み合わせていき、希望のものがでてきたかどうか検査を行っていく。この方法の欠点は、不採用のものが圧倒的にたくさん出てくること、素朴な生成規則ではあまりにも時間がかかり過ぎることである。

 コンピュータがなんらかの独創的な制作物を作るためには、ボトムアップ法は使わずに、高度な生成規則を開発して、トップダウン法を貫くしかないであろう。十分に時間が経てば、生成物の中には、音8つのドシラソファミレドといったクリスマスの有名なメロディも、12文字のナツクサヤツワモノドモガユメノアトといった芭蕉の有名な俳句も出てくることであろう。そしてさらにもっと時間が経過すれば、私たちにはまだ聞いたことも見たこともないような独創的メロディや俳句もきっと出てくるに違いない。

     
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