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科学者の眼(51)
車内アナウンス

  徳田 雄洋 東京工業大学大学院教授


  山手線の車内アナウンスを聞いていたら、その日の運行遅延理由を説明している。
 「...駅のホームから線路に落ちた...」
 どうやら何か線路に落ちたらしい。
 「乗客...」
 なんと人間が落ちる事故だったようだ。
 「のかばんの処理のため...」
 落ちたのは幸い乗客でなく、乗客のかばんだった。

 日本語の文は最後まで聞かないと肝心なことがわからない場合がある。典型的な例が、肯定文なのか、否定文なのかの区別だ。日本語の文は、主語、目的語、動詞の順に並ぶため、最後の最後まで 聞かないと、動詞の部分がわからない。人によっては賛成意見を述べるか反対意見を述べるか決めずにまず文を言いはじめ、文の最後近くになってからようやく決めるほどである。

 英語の場合は、主語、動詞、目的語の順に並ぶ。英語の文にも最後まで聞かないと肝心なことがわからない場合がある。例えばあなたが通りを歩いていて道を聞かれたとしよう。相手は道を聞こうとしている人、あなたは道を教えようとしている人であることは、文の途中までくれば明白である。ところが文の最後にならないと肝心の行き先が出てこない。目的地への行き方を教えたくても、じっと文末まで待たないと、文の途中では教えられないのである。

 世界中の自然言語の文を調査した言語学者によると、文の並びは、動詞-主語-目的語か、主語-動詞-目的語か、主語-目的語-動詞の主に3通りらしい。つまり文が動詞、主語、目的語の順に並ぶ 自然言語もあるということになる。プログラミング言語のような人間が人工的に設計した言語では 動詞、主語、目的語の順の文も登場する。「加えよ 2 3」とか「加えよ 1 加えよ 2 3」 といった具合である。しかし、自然言語として日常話す場合、この順番は容易なのだろうか? おそらく肯定文か否定文かを文のはじめに決断する必要があり、目的語も最後まで聞かないとわからないだろう。そして、たとえば冒頭の電車の車内アナウンスの文は一体どうなるのだろうか?

     
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