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科学者の眼(39)
デジタル社会の「文明」と「文化」

  徳田 雄洋 東京工業大学大学院教授


  しばしば言われるように社会を成り立たせているものには、飛行場や電話などといった普遍的な文明と、家の中で靴を履いたままか・脱ぐか、入浴はシャワーで完結か・浴槽につからないと完結しないかといった個別的な文化がある。ところでデジタル方式の機器やサービスから成り立っているデジタル社会はどうだろうか? 例えばネットストアの無料配送範囲や交通機関のICカードは普遍的な文明だろうか、それとも個別的な文化だろうか?

 まずは日本国内のネットストアの例である。画用紙100枚、定価500円の商品を購入する必要があった。1駅離れたお店で扱っているか不明だったので、ネットストアで注文することにした。1分程度で注文は完了し、500円の商品の配送料も無料であった。1日経つと商品発送済みのメールが届き、発送翌日には到着予定であった。配送状況ページによると東京から数百キロ離れた岐阜県の倉庫から配送を開始していた。東京近郊の倉庫から出発するものと思っていた予想は全くはずれてしまった。1駅離れたお店でも買えたかもしれない画用紙が、数百キロも離れたところから届くことになった。そしてメールの予告通り、翌日には正確に画用紙が到着した。

 次は国外の交通機関の例である。欧州のある都市で国際会議があり、路面電車でホテルと大学の会場を数日間往復した。会議参加者には会議期間中有効なパスポート切符が配布された。路面電車の中の光景は、当然のことながら数十年前とは違っていた。利用者はGPS機能付きのスマートフォンや携帯電話を持っていた。ただ以前と同じ光景が1つあった。それは基本的に乗り降り時には切符チェックがなく、時々抜き打ちの車内検札を行う仕組みだった。そして切符を持っていない人からは数十倍程度の高額の違反金を徴収する方式だった。日本のICカードによるバスや鉄道などの高度で厳密な切符管理は高額のコストを必要とする。おそらくこの国では今後も低コストの確認方式を続けるのかもしれない。

 普遍的な文明ならば、進歩の度合いが問題になる。個別的な文化ならば、その地域の人たちが選択すればよいのかもしれない。ネットストアが数百キロを送料無料範囲とすることも、交通機関のICカードによる自動切符管理システムも、もしかすると個別的な文化に近いのかもしれない。デジタル社会がどれほど進んでも、バスの予定時刻を何十分過ぎてもやはりやって来ない、そんなスマートシティの正反対のような大都会が、世の中にあってもよいのかもしれない。

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