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科学者の眼(27)
いつもの金曜日

  徳田 雄洋 東京工業大学大学院教授


 いつもの金曜日午後だった。キャンパスでは明日からの入試の案内板や掲示の準備も終わっていた。学生は忙しかった卒論、修論、博論の発表シーズンも終わり、リラックスしていた。一部の大学院生は卒業旅行にイタリアなどに出かけていた。

 午後3時の十数分前に、突然建物の揺れがはじまった。なんだかいつもの地震と違っている。垂直方向ではなく、水平方向南北に1mくらいの幅で激しく行ったり来たりする。まるで台風の海の船の中で揺られているようだ。

 普通の地震は30秒くらいでおさまるのに、揺れは時間が経つにつれ、だんだんひどくなっていく。これはもしかすると、百数十年毎に必ずやってくる巨大地震が、とうとう東京にやって来たのかもしれない。この建物は大丈夫だろうか。

 ようやく5、6分ほどして建物の揺れはおさまった。幸い部屋の中のものは壊れたりしなかった。奇跡的である。建物が揺れている間ずっと自動ロックのフロアドアを開放にしておさえていた大学院生がいた。とても落ち着いた判断だ。

 揺れがおさまってほっとする。建物も問題なさそうだ。しかし、しばらくすると、また大きな揺れがはじまった。これはいけない。建物から全員避難するしかない。2度目の大きな揺れが数分後におさまるのを待って、ただちにフロアのすべての人は、避難訓練の要領で、階段を降りて屋外へ避難した。

 避難場所の1つのグラウンドまで行くと、既に避難している人々がいた。キャンパスのその他の避難場所にも多数の人々がいた。遠くに見える電車は線路の途中で止まったままになっている。

 ラジオを聞いている人や、ワンセグ放送を見ている人や、ストリーム放送を見ている人がいる。東北地方三陸沖でとても大きな地震があり、東京でも建物が倒壊したり千葉県で大きな黒い煙が上がっているという。

 どうやらこの状況では音声通話は全く通じない。携帯メールもあまりうまく発信したり受信したりできない。スマートフォンは大丈夫だった。メールの送受信もテレビ電話もSNSもすべて大丈夫だ。インターネット自体は問題ない。

 ストリーム放送を見せてもらうと、声変わりしていない中学生らしい男の子が、自宅居間のテレビのニュースを、全世界に向けて彼のコメント付きで中継している。

 鉄道はほぼすべて止まっているようだ。キャンパス最寄りの駅はシャッターが降りて閉鎖中で、タクシーの待ち行列はとても長いらしい。バスはなんとか動いてるようだ。一部の地域は地震で電気や水道が完全に止まっている。これから予想される地震後の津波に、港町や原子力発電所は大丈夫なのだろうか?なんとか無事を祈りたい。


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