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  デル株式会社


科学者の眼(6)
未完成のハードディスクレコーダ

 徳田 雄洋 東京工業大学大学院教授

 昔々アナログ方式のテレビ受像機やビデオレコーダの時代は、販売店で購入する時点で電気製品は一応完成品であった。そしてこれらの製品は家庭で使用するにつれ、少しずつ老朽化して行った。
  今日のデジタル方式のテレビ受像機やビデオレコーダの場合は、デジタルコンピュータを中心装置として持つため、衛星放送などによる自動的プログラム更新により、購入後の自動的な機能強化が可能となっている。例えば昨日までBS放送しか受信できなかったテレビチューナが夜のうちの自動的プログラム更新により、翌朝には110度CS放送も見えるようになるといった具合である。

 さてこのような時代にハードディスクレコーダを購入したある家庭の話である。購入してしばらくハードディスクレコーダは順調に動作していた。ところがある夜、電源を入れると、10秒ほどテレビ放送画面が映り、50秒ほど真っ黒い画面になるという症状を、ほぼ正確に繰り返すようになってしまった。
  家族はレコーダのハードディスク部分がこわれてしまったのかと思い、メーカーの修理サービスに連絡をとった。すると修理サービスの人の対応は意外なものだった。このハードディスクレコーダ関連の修理が多数発生していて修理に行ける日程は少し先だというのである。
  やがてようやく修理の人がその家庭にやって来た。修理の人の説明によると、今回放送による自動プログラム更新で、誤ったプログラムを日本中にいっせいに配ってしまった。その結果このレコーダを持つ家庭を回って元のプログラムに戻しているというのである。
  修理の人の簡単な作業で、プログラムは元にもどり、レコーダは再び順調に動作するようになった。

 ところが1ヶ月くらいすると、今度は録画の開始時刻と終了時刻がほぼ正確に約1分遅れるようになってしまった。例えば朝7時30分から7時40分のモーツァルトの番組の録画を設定すると、番組の開始約1分後からスタートして10分間録画するのである。番組冒頭のタイトル画面もテーマ音楽ももはや見ることも聞くこともできなくなるのである。
  昔のアナログ方式のビデオレコーダの場合、時刻が合わなくなっても、時計の値を手動で適当に変更すればよかった。ところがこのデジタル方式のビデオレコーダの場合、操作説明書によると、自動的にきわめて正確に時刻が合う方式なので、デジタル録画用の時計の値を調節する普通の手段はないという。
  そこで仕方なく、開始時刻を1分早くして、例えばモーツァルトの番組の録画の標準設定後、時刻修正を行い、 同じ番組名で7時29分から7時39分まで録画を行うよう設定してみた。

  この時刻修正の結果は悲惨なものであった。ほぼ10分間のモーツァルトの番組の全体は録画できたものの、7時29分から7時30分は1つ前の番組名での録画、7時30分から10分間はモーツァルトの番組名での録画、つまり、2つの別々の録画になるのである。
  時刻のずれに対する修正手段も対抗策もないため、この家族は、ひたすらじっとデジタル方式のハードディスクレコーダの奇妙な動作を我慢することにした。
  この症状に変化が生じたのは、症状出現の約1ヶ月後であった。ある朝、家族の一人がこの奇妙な症状が完全に消えていることを確認した。メーカーが、夜のうちにプログラムの不具合を自動プログラム更新により、修正していたのである。この家族はもはやこのレコーダの動作回復にびっくりしなかった。

 デジタル方式の時代にあって、私たちの購入するハードディスクレコーダは一応完成状態なのだろうか? それとも開発途中なのだろうか?

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