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科学者の眼(67)
AI はトビラを開けられるか

  川合 慧 放送大学教授


 室内犬を飼っていると,その仕草に癒されると同時に,犬種によって頭の良し悪しの差を感じることがある.典型的なのはケージのトビラを開ける場面である.ケージのトビラが半開きで,犬は中に居て外へ出たがっている状況である.大半の犬は,まずトビラを鼻でつっついてみる.トビラが少しでも動いて開口部が拡がれば,もう少しつっつく.さらにトビラが開く.さらにつっつく.これを繰り返して自分が通りぬけられる幅が開いたら外にでる.これに対して比較的におっとりした犬は,つっつかない.誰かが開けてくれるまでひたすら待っている.ケージの外に食べ物を置いて誘っても,ずっと待っている.ドアを開ける例示をしても動かず,開いたドアから出てくるだけである.体を把んでドアを押して開けさせ外に出しても,これを自分だけで再現することはしない.

  こんな例もあった.風呂場の入口のドアが,図のように3枚からなっている.

 まず1枚目を動かす(a).そのうち2枚目に引っかかってこれを押し,最後には全体の3分の2まで開く(b).閉める時には2枚目は1枚目に引っ張られて元の位置に戻る(c).1枚目の把手は高い位置にあり,犬が触れる高さには1枚目を動かすものがない.つまり犬にはこのドアは開けられない,筈であった.ところがある日,このドアが開けられていたのである.理由を調べるため,しばらく観察して見た.鍵は2枚目のドアであった.本来2枚目は1枚目に押されて動くが,2枚目だけを押すと1枚目も引っぱられて動くのである.しかも2枚目は1枚目の手前にあり,鼻で横に押せば簡単に動かせる(d).

 
かくして犬は風呂場のドアを開けていたのである.
 犬がどのようにしてこの方法を発見したかはわからない.押して動きそうな所を探したのかも知れないし,正常な動きの中で2枚目も動くことを見て学習したのかも知れない.どちらにしても,自分で押すという動作と,その結果として物が動くということを理解することが重要である.

  今,世の中はAI (artificial intelligence,人工知能)ばやりである.新聞の紙面にもAI の2文字を見ない日はない.AI に奪われそうな職業一覧などが時々紙面を賑わす.人間の活動を丸ごと代替できそうなAI であるが,『身体性の無いAI は人間と同等にはなれない』という議論も有力である.いわく「直感や感情は身体感覚がもとになっているので,これ(=身体性)が無いAI には人間と同じことはできない」という訳である.それでは本論でご紹介した犬はどうなのであろうか.テレビカメラから人間行動の画像を集積し,ドアの任意の場所が押せるアクチュエータを備えたAI は「2枚目ドアの方法」を発見(あるいは発明)できるであろうか.AI と身体性については,今後も気にかけている必要があるかもしれない.

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