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  デル株式会社


科学者の眼(58)
ネコババの手口

  川合 慧 放送大学教授



 3人の客が宿賃10円の旅館に泊まりました.宿賃の合計30円を仲居に持たせて届けました.するとその日はサービスデーということで,30円が2割引の24円に安くなっていました.それで,返金6円を仲居に持たせて返しました.仲居は途中で「半分ぐらい返せばいいだろう.3円もらって3円を返そう.」と思い,3円をネコババして3人に1円ずつ返しました.さて,1人の客が払ったのは10−1=9円で,3人合わせて27円.これに仲居のネコババ分3円を加えてちょうど30円になります.どこにも矛盾はありません.メデタシメデタシ.

 えええっ??と思われる方もいるだろう.「確かこれは1円足りなくなるパルでは?」という声が聞こえそうである.しかしここではどう考えてもピッタリ合っている(ように見える).「1円足りなくなる」のは,たとえば返金額が5円,ネコババ額が2円,客への返金が1円ずつの場合である.この場合も同じように考えると,客が払ったのが合わせて(10−1)×3=27円,ネコババ額が2円なので,加えるとちょうど30円,ではなく29円となり,めでたく1円足りなくなる.消えた1円はどこへ?

 ネットを見ていたら,この1円足りない問題を次のように説明しているものがあった.
 30円のうち2円ネコババされたので本来の宿泊費は28円.1円ずつ返金されたので客1人当り(28−3)÷3=8.3333...円.この切り捨て分を合わせると,失われた1円になる.つまりこれは,計算精度が有限であることから生ずる現象である.
  一瞬納得してしまいそうなこの説明はいかがであろうか.

 このパズルの仕掛けはネコババ額の誤った扱いである.客が支払った額は,結果的には旅館と仲居に渡っているので,客の支払い額と仲居のネコババ額を加えても何の意味もない.その状況を「足しても1円足りない.どうして?」と言って誤魔化す訳である.また冒頭の状況では「足すと丁度合う.メデタシメデタシ」と納得させる.これらの論法がおかしいことは,たとえば,返金額4円,ネコババ額1円の場合は2円も足りなくなる一方,返金額7円,ネコババ額4円の場合は,客が払った27円と4円とを足すと31円となり,合計額が増えて皆もうかることになってしまうことからもわかる.

 世間的な話としては,「丁度合う」という論法の方がタチが悪い.誤った計算方法を誤魔化して認めさせるのに使われるかも知れないからである.また「計算精度」といった専門用語の使用も要注意である.この場合にはネコババされた2円の客一人当たり額が0.6666...円なので,ちゃんと一人当たり 8.3333... + 0.6666... =9円払っているのである.

一寸のパズルにも五分の魂といったところである.

 

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