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科学者の眼(52)
ろくよん,ろくよん,いちにっぱ.

  川合 慧 放送大学教授


  少々上の世代の方々には耳慣れたフレーズかも知れない.1996年にNTTのISDNのCMで,中居正広が連呼していた.ISDNでは物理的な電話回線で電話・FAX・デジタルネットを実現していた.INS64という回線では,一本で電話が2本使えたり電話とFAXが使えたりする.その中身は,電話1回線に相当する64キロビット/秒のチャネル2個と,1個の16キロビット/秒のチャネルからなっている.スマホ回線のダウンロードが50メガビット/秒ぐらいである現在ではもう使われなくなったと思っていたが,電話やFAX回線としての安さからか,まだまだ使い続けられているようだ.冒頭のフレーズは,この64キロ回線を並列に束ねれば128キロという「速さ」が利用できますよ,ということを宣伝するためのもの.

 信号線の「速さ」は,信号が伝わる速度ではなく,一定時間内に送ることができる情報の量で表す.ISDNの64キロビットの回線では,1秒間に64000個の0/1を伝えられる.信号線の性能をそのままにしてこれを速くするには,複数本を並列に束ねればよい.鉄道の駅の自動改札機も,単体では1秒に1人でも,5台並べれば1秒に5人が利用できる.標題の“ろくよん”では小さなデジカメ写真でも送るのに10秒ぐらいかかる.これは遅い!そこで“並列つなぎ”を実行すると,“ろくよん+ろくよん=いちにっぱ”となり,5秒に短縮される.さらにISDNの回線を2本ひけば“にごろ(256)”で2秒半となる.5本使えば1秒とどんどん速くなる.

 並列つなぎは速度向上の一般的なやり方である.パソコンの内部あるいはパソコンと外部機器とを接続する場合も,回線速度を上げるための並列つなぎが行われる.図1はこれまでよく使われてきたプリンタケーブルのコネクタで,ピン総数は36であるが,上り8本,下り8本の信号線がある.図2はパソコンの内蔵ディスク用で,ピン総数80,片方向8本の信号線.接続するケーブルも巨大なひもかわ”のような形状である.このケーブルは幅が数センチもあり,PC内の風の流通の妨げともなると言う.

 
        図1                  図2

 万能とも思われる並列つなぎでも,次第に問題が起きるようになる.一つが信号線同志の干渉で,隣の線の信号が漏れてきて誤ったデータとなってしまう現象である.図2の80本ケーブルは,40本の信号線の間すべてに0Vの線(アース)を挿んでこの影響を少なくしている.もうひとつの問題は信号のねじれで,一斉に送り出した筈の8個の信号がいろいろな理由でズレてしまい,受取り側では前後の信号との区別がつかなくなってしまうのである.

 沢山の信号線を使って速度を稼ぐ方法が限界に達するころには,一本の信号線の速度,つまり信号線自体の応答速度や入出力回路の速度が速くなってくる.実際,現在広く使われているUSBケーブルでは,信号線はわずかに2本(1対)しかない(図3).ディスク用の信号線も同様である.ところが,USBも第3版(USB3.0)になると,また結合線の数が9本に増えてケーブルは太くなりコネクタも大きくなった.歴史は繰り返すと言ったところか.世の中“ろくよん,ろくよん”の時代と同じことを繰り返す宿命にあるようだ.


          図3

注:ISDNには23個の64キロ回線を扱うINS1500という商品もあるが,いずれも2025年頃に店仕舞いの予定らしい.

 

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