PORTAL TOKYO
  デル株式会社


科学者の眼(43)
剥がしの美学

  川合 慧 放送大学教授


 「ほこ×たて」というTV番組が終わった.演出のための「やらせ」が過ぎたからと言う話である.この番組の売りは,“絶対に××する”という人や物と“絶対に××させない”という人や物とを対戦させ,どちらが勝つかを見ることであった.言うまでもなく矛盾という言葉にちなんで企画された番組であるが,性質や機能が正反対のものの取り合わせの妙が興味深かった.考えてみれば,人がやる行為には正反対のものが結構ある.箱を開ける・閉める,紐を結ぶ・解く,鍵を閉める・開ける,などなどである.これらに共通しているのは,(a)比較的自由であるが危険な状態(箱が開いている,紐が解けている,鍵が開いている)と(b)不自由ではあるが安全な状態(箱が閉まっている,紐が結ばれている,鍵が閉まっている)との間を行き来することである.食品の包装などでも同様の状況がある.簡単に開いては困るが,かと言って開けにくいのも問題なのである.自由と安全とが相容れないかどうかは別として,このような状況は人間の営みとして一般的なことなのかも知れない.情報の分野では,言わずと知れた平文(ひらぶん)と暗号文という例がある.

 随分前から,ペットボトル自体には商品名や注意書きを印刷しないで,ほぼ全体を薄いフィルムで覆い,文字や絵はフィルムの方に印刷するようになった.再利用の観点からであろう.店頭で売っている状態が安全な状態であるとすると,廃棄するためにフィルムを取り去ったものは危険な状態ということになる.実際,飲む前にフィルムを外すと中味が何だか分からなくなってしまう.問題は取り外すのが私達自身であることである.そのためには,取り外し方を示す必要があるが,これがまた商品によっていろいろである.

(1) ここから剥がして下さい,というマークで示す.これにも下向き三角形を連ねるものや,「はがし口」を明示するものがある(直接指示型).
(2) ここが切れ目ですよ,ということを小さな穴の列で示す(切れ目表示型).
(3) (1)と(2)の併用
(4) 微小部分を少し剥がしておく.そこに印が付いていないと気付きにくい(剥がし例示型).
(5) 全く切れ目がない.この場合は鋏を使うか「ボトルつぶし」しか方法がない(安全第一型).
  誤って剥がれても困るし,商品の見映えを悪くしても困る.かと言って剥がし方が全く分からないのも困る.昔は存在しなかった,剥がしの美学とでも言える商品デザインのトレードオフと言うこともできよう.

直接指示型



切れ目表示型



剥がし例示型






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