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科学者の眼(37)
写真の真は真実の真?

  川合 慧 放送大学教授


 このごろはケータイで撮った写真がおどろくほど高画質で,低価格のデジカメは売れ行きが落ちているという.デジカメという発明品以前から暮らしている者としては夢のような気分である.すこし写真についての振り返りをやってみよう.

レンズ
 眼鏡に使うようになったのは15世紀ごろ,顕微鏡や望遠鏡は16世紀から17世紀にかけて発明されている.外界の像を平面に投影するものは,15世紀ごろから正確な透視図のデッサンのために画家が使うようになった.

感光システム
 初めのころは露出時間も1時間のオーダーであったが,秒オーダーとなってシャッターが導入された.感光面も,1枚1枚取り換える形式から,ロールフィルムを巻き上げるタイプのものができてきた.

システム化
 フィルムや乾板のサイズや感度などの自動設定,撮影した日時の画面中への自動的な写しこみなどが実現された.また,露出パラメタの自動あるいは(シャッター速度優先や絞り優先などの)半自動設定や,簡単な画像処理による自動焦点合わせも進歩していった.

そして,デジタル化
 このような進歩の中で実現されてきた多種多様な処理のためには,それぞれ別個の機構や電子回路が必要である.これらの処理を統合する切札が,他の多くの分野と同じくデータと処理のデジタル化である.
 1990年ごろのデジタルカメラでの解像度は今風に言うと300キロ画素程度で,モヤッとした画像しか記録できず,フィルム式の写真にはとても対抗できるものではなかった.その後の技術進歩は皆さんご承知のとおりである.

デジタル化のご利益
 何でもデジタル化すればいいという訳ではないが,こと写真に関してはその効果は大変大きい.まず第一に,画像に撮影日付を始めとする様々なデータを付加できるようになった.撮影日時,カメラのメーカ名,露出とシャッター速度,GPS情報などを元の画像と共に記録する.特に撮影日時は,後で写真を整理するのに非常に便利である.さらに,デジタルデータとなった写真は他のデータと同様にコンピュータで処理したりネットで送信したりできる.撮った写真をデジカメからすぐに送信することもできる.

写真の行く末
 デジタル化のもう一つのご利益は,様々な画像処理を施せる点にある.自動的な焦点合わせ,露出決定などは序の口.肌色補正や赤目の除去,人の顔や犬猫の顔検出と焦点合わせ,何枚か連写した画像からの最適画像の合成など,ほとんど何でもありの世界だと思ってもよい.画像処理の研究レベルでは,画像の切り出し,切り出した後を背景で埋める,任意の幾何変換,任意形状への画像の貼り付け,といったものから,顔画像からの人種・性別・年齢の判定,笑顔や怒顔の検出などが実現されているので,普及型のカメラにこれらの機能が搭載されるのも間近いかも知れない.
 こうなってくると,写真の「真」は真実の真からは程遠くなるのであろう.写真のシステムができた時に「絵画は死んだ」と言った画家がいたというが,写真の側も表現手段としての絵画に近づいてゆくようである.

 

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