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科学者の眼(34)
インド式?

  川合 慧 放送大学教授


 今,「インド式」でネットを検索すると,カレーやダイエット,弁当箱,占星術などを押さえてダントツにヒットするのは「インド式計算術」である.
  ・簡単に計算できるインド式
  ・インド式掛け算の暗算
  ・数学の天才を作るインド式
  ・インド式計算ドリル
  ・インド式速算術
  ・インド式計算マスター99×99まで
  これらに関する本も山ほど出版されている.これほどまでにインド式が流行っているのは,計算に対する一般的な苦手意識が強いからなのであろうか.
  それではちょっと覗いてみよう.

 たし算:29+48を暗算でやってみよう!
  ここでは「補数」の考え方が導入される.専門用語としての「ある数」の補数は,それに足すときりの良い値になる数のことである.代表的なのは「10の補数」で,1に対して9,2に対して8,7に対して3,という具合である.
  「9の補数」というのもよく使われる.たとえば「1000000から173205を引く」場合には,別に個々に計算する必要はなく,単に1,7,3,2,0,5 の9の補数を並べて1を加えればよい.答は826794+1=826795となる.
10の補数や9の補数は,コンピュータにおいて引き算を加算回路で実行するときに用いられる.

  さて,29+48であるが,29を「きりの良い数」である30にするには1を加えればよいので,29の「30の補数」は1,と考える.同様に,48の「50の補数」は2となる.ここでの考え方は,“「きりの良い数」ごと加えて,次に補数を引く”ことである.
 29+48=(29+1)+(48+2)−(1+2)
      =30+50−3
      =77
  「暗算でやる」場合には,扱う数をできるだけ単純にしておくことが有用なので,30+50のような, 実質的に3+5で済むための変形を行っている訳である.

 かけ算の場合は,補数を含めたいろいろなテクニックが紹介される.たとえば
  32×19=32×(20−1)
      =640−32
      =608
これは補数の考え方.

  14×45=(14/2)×(45×2)
       =7×90
       =630
これは倍数と約数を相殺する方法

  48×25=(48/4)×(25×4)
       =12×100
       =1200
これも倍数と約数の相殺だが,片方(25)を100という単純な数にするのがミソ.

  24×75=(4×6)×(25×3)
       =100×6×3
       =1800
これも25をターゲットとしている.

  102×98=(100+2)×(100−2)
       =100×100−2×2
       =9996
これは“和と差の積は二乗の差”という数学の公式の応用.さらに,説明用に図も使われる.

 算術にちょっとでも慣れている人がここまで読むと,「なあんだ,普通の計算術ですね」という感想をもつだろう.実際,面積を使った掛け算の説明や桁ごとの掛け算の原理図,それに3や9の倍数の見分け方(各桁ごとに加えて判定)なども含まれている.このような計算術は古くから知られており,実際に良くつかわれている.もしこれが新鮮なものとして受け取られているとすれば,学校での算数や数学の教え方のほうに問題がありそうである.

 インド式というと,巨大な乗算表の話が出てくる.日本では0〜9相互の乗算が“九九”として教え込まれるが,インドでは19×19とか19×21とか,あるいは本気で99×99を覚えるという話もある.ただしこれも,地域によるとか時代によるとかいう修飾がつくのがふつうである.たとえば19×19の表を覚えたとしても33×35はそのままではできないので,33×55=(20+13)×(40+15)とするのであろうか.

 あと,よく話題にされるフランス語の数は,20を一つの単位としているので,たとえば81は“20を4つと1”(quatre-vingt-un)と読む.9×9=81 は “neuf fois neuf quatre-vingt-un”となるが,やはりこれは日本の“kuku hachijuu-ichi”に負けそうではある.
  一方,フランスが有名な数学者を輩出していることは周知の事実である.

 『世界に冠たるIT大国インドの計算テクニック』といったうたい文句は,書籍販売のためのキャッチフレーズと考えておこう.

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