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科学者の眼(25)
あれかこれかの結末

  川合 慧 放送大学教授


 あれかこれかという二者択一を迫られる場面は多い.個人の場合でも,学校,就職先,結婚相手,などなど,人生は選択の連続と言えるかもしれない.社会についても同じである.例を3つあげよう.

東海道か中山道か
  明治の初めに,東海道と中山道のどちらを東京と京都を結ぶ主要道とするかで議論があった.東海道は,大きな河川をいくつも越えるので洪水による河止めがあり,東京から京都までの道中にかかる日数が不安定であるという欠点があった.また開国直後の日本としては,海からの攻撃に弱いという不安材料もあった.他方中山道は,陸の中の山あいを通るので河止めの心配はないが,碓氷峠,鳥居峠などの峠道が多い.

直流か交流か
  発明王エジソンと同時代のテスラとの電気に関する確執は有名である.電気を送る形式として,エジソンは直流を,テスラは交流を選択した.交流の利点は電圧を変えるのが容易なことで,トランスでのコイルの巻き数を調整することで,ほとんど任意の電圧に変えることができる.それを利用して,発電場所から市街までは損失の少ない高圧で送り,利用場所では危険の小さい低電圧で使う,ということができる.電圧の変換が困難な直流では,高電圧のまま利用すると危険が伴い,低電圧で送電すると損失が大きくなる.

10進か2進か
  コンピュータの計算素子を2進数用にするか10進数用にするかは,最初期のコンピュータにおける設計上の選択であったが,分かりやすさという理由で10進数が選ばれることが多かった.歴史的コンピュータENIACでも,数値を保持するレジスタは10進表現であった.10進表現であれば,入力も出力も単純である.2進表現のコンピュータでは,内部的な計算の結果を表示するために2進10進変換という余分な処理が必要となる.実際,円周率を10進表記で何百億桁も求める場合には,現代でも何時間という時間のかかる2進10進変換を実行する必要がある.

 以上3つの「あれかこれか」はその後どうなったであろうか.

 主要道については,橋の整備が進んだことと温暖な気候の関係もあって,東海道が圧倒的に有利となり,新幹線もここを通ることとなった.ところが両方とも直線からは大きく迂回していて,たとえば高速鉄道という面では具合が悪い.最近になって磁気浮上式のリニアー新幹線のルートが,これら2道の真中をほぼ直線で通ることとなった.新しい技術に適した第3の選択である.
  送電における交流と直流の問題では,電圧変換が容易な交流が圧倒的に有利であったが,半導体による直流の電圧変換技術の進歩により,この問題はほぼ解消した.しかし別の面での問題と社会インフラの差により,直流送電に置きかわってしまうことはなく,選択は維持されている.
  2進と10進の話では,ほぼ100%が2進数の枠組みとなった.10進表現という分かりやすさよりも,2進表現されたデータの演算の能率の高さが選択の理由である.10進での加算回路は2進のそれの何倍も複雑なのである.ここでは選択は変更された.

 方式の選択という問題は社会的及び経済的問題も絡むので一筋縄ではいかないが,選択の見直しもしばしば行われていることに気を留めておこう..

 

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