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科学者の眼(22)
さむらいは西を向くか

  川合 慧 放送大学教授


 いろいろなことは,普通,順を追って習ってゆくものだ.数の計算では,足し算を習ってから掛け算,割り算と進む.理科では,周りの物事の様子を観察し,その規則を何となく会得してから,先人が築いた様々な理論を学んでゆく.他の教科も同じようなものである.

 そんな中で,きわめて基本的な事柄であるのに,きちんと習った覚えがない,というものもいくつかある.よい例の一つが自然数というもの.ミカンが「ひとつ」,ミカンが「ふたつ」,ミカンが「みっつ」,は,図を並べたり,実物を示したりして教わり,「順に大きく(多く)なるもの」と教えられる.さらに,ふたつのミカン,ふたつのリンゴ,ふたつのケーキ,という一群の例示から,「ふたつ=2」という数を習う.これらの教え方では,自然数をきちんと教えているわけではないが,このあと位取りや四則演算のやり方を習えば実用上は問題がない.

 左右と東西南北を見てみよう.日本では,左右は躾けの中で教えられることが多いという.つまり右手で箸を持ち左手で茶碗を持つ(のが正しい)とされ,実地に「こちらの手が右手」と教わる訳である. 辞書では,左右は方角と絡めて定義することが多い.ある辞書では,「南」は日の出の方向を向いて右の方向のこと,「右」は日の出の方向を向いて南の方向のこと,とある.別に変ではないようであるが(a),仮に南北を逆さまに覚えていたとすると(b),それでも辻褄が合ってしまっている.これではきちんと定義していることにはならない.皆さんは自分の右手,をどのように習ったであろうか.

     
  自然数や方角のような数理的な事柄ではなくても,「きちんと習った覚えがない」というものは多い.表題の「さむらい」は,「西向くさむらい」というフレーズで,言うまでもなく1年12月の「小の月」を覚えるために使われる.「さむらい」は漢字の「士」から11を意味させる.

 12の月の「大小」が規則的ではないために必要な知識であるが,実はこれ,つまり2,4,6,9,11 をきちんと教わった人は少ない.小学校の教科書にもないらしい.学習指導要領にないからだという人もいる.生活科や理科になければきちんと教わるチャンスはなさそうである.ちなみに覚え方としては,握りこぶしの凸凹を順に数えるのも一般的で,人差し指の根元が出ているので「大の月」,中指との間がへこんでいるので「小の月」,などと見てゆく.小指で折り返す時に7,8月用に2回数えることに注意.英語にも "Thirty days hath September, " から始まる覚え歌が,大昔からあるという.

 身の回りの事柄をいつどのように教わったのかを考えてみるのも時間つぶしには一興である.


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