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  デル株式会社

科学者の眼(13)
探しものはどんな形ですか♪

  川合 慧 放送大学教授


 ジグソーパズルをご存知だろうか.絵や写真を厚い紙に印刷したあと,タテヨコに切れ目を入れてバラバラにしたものである.バラバラの状態で売っている.買ってきたらそれを,元の状態になるように並べる.何とも非生産的な遊びであるが,やってみるとこれがなかなか面白い.全体をバラバラにするときには整然とした碁盤目ではなく,ピースと呼ばれる隣の1個と噛み合うように切る.実際には,盤面の端から端までカバーする,「うねうねとした刃」をもつ図のような「ジグソー」で押し切る.ジグソーの刃の「うねうね度」や間隔には微妙な変化をつけてあるので,2個のピースが全く同じ形になることはほとんどない.

      

  ジグソーパズルの難しさはピースの数で大体決まる.子供向けには20〜30のものもあるが,ふつうは200〜500であり,1000とか3000とかいう超難しいものもある.このパズルをやるときには,各ピースの色あいや特徴的な図柄を頼りに組み合わせてゆく.基本は「いまここに欲しい」と思うピースを,残りの中から探してくる作業である.この処理を専門用語では探索と呼んでいる.
  探索を何も考えずに,つまり「残っているピースを全部試す」というやり方でやったとしよう.ピース数20の場合,適当に1個選んだら,他の19個を順に試す.見つかったら,また残りの18個を順に試す.見つかったら,を繰り返す.それぞれの試しでは,先頭で見つかるかもしれないが,最後の1個まで分からないかも知れない.それで,平均的に半分ぐらい探したところで見つかるものとすると,20ピースの場合,当てはめてみる操作は100回弱ほど必要となる.1回の当てはめに5秒かかるとしても8分くらいで終了できる.ところが,これが100ピースになると約2500回で3時間半ほど,500ピースでは86時間,3000ピースでは実に26日間にもなってしまう.
  実際にこのパズルをやる場合には,試すピースを残り全部からではなく,図柄や色あいや形で分けた小さなグループから選ぶ.まず,全体のへりに当るピースは,一辺が直線になっているので,これらを選び出して全体の枠を作るのが最初の作業である.次にピースの形に着目する.あるピースのひとつの辺では,ジグソーの刃が内側に入ってくるか外側になっているかの2通りの場合がある.辺は上下左右の4つあるので,結局2×2×2×2=16通りの形が出来ることになるが,回して同じ形になるものを同一視すると,写真1に示す6通りとなる.もしも当てはめるべきピースの形が分かっているものとすると,各段階で探すべきピースの数は約6分の1に減り,時間も大幅に短くできる,はずである.

  
  <写真1>

  ところが現実はそう甘くない.この6通りのピースが均等に存在する訳ではないからである.図に示した実例では,ヘリのピースを除くと,クローバー(5),人形(20),キ形(124),横牛(75),正面牛(18),手裏剣(5),となっており,均等とは程遠い.実際,ほとんどすべてが「キ形」であるパズルもある.それで,今度は「キ形」対策が必要となる.たとえば写真2.左側は左上または右上にとがっているもの,右側は上が丸いもの,そして下側は上下がねじれているもの,である.もちろんこの分類は図1のような明確なものではないので,どっちつかずのようなピースもある.とがっている側と丸い側が同居しているものもある.これらは,それぞれ試してみる他はない.1000ピースぐらいになると,事前準備として,色あいと形とでなるべく多種に分類しておくことが必要であり,そうしないと常識的な時間内では完成できない.

    
    <写真2>

  世の中検索ばやりである.何かというとネットで検索.その結果で買い物をしたり旅行プランを立てたりする.パソコンを使っていて分からないことがあると,もちろん検索である.蓄えられているデータの中から望みのものを探すという,コンピュータの基本中の基本のような機能が,社会的にこれほど広まっている例は他にはない.このような検索は,実は,データの蓄積方法や効率的に探すための手法についての高度な研究成果に支えられて実現しているのであるが,使っているだけではその様子は分からない.ジグソーパズルでの探索を経験するとその一端が窺い知れる,かどうかは保証の限りではないが.

 

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